日本人信者がソウルで大規模デモ
旧統一教会の日本人信者らが、8月18日に韓国ソウル市内中心部の景福宮前で大規模集会を行った。
このデモについては、日本でも大きく報道されている。
参加者は約4000人、そのうち8割が合同結婚式で韓国に嫁いだ日本人女性。幼い子供を連れた母親の姿も多く見られたという。
「歪曲報道をやめろ、宗教弾圧をやめろ」
報道陣を前に、彼女らは繰り返しそう叫んだ。日本のメディアは、事実無根の偏向報道を即刻中止し、日本において宗教の自由が守られるようにしてほしい。という主張なのだが…。
しかし、「そういった訴えは日本でやるべきでは?」との素朴な疑問がわき起こる。
狙いは竹島、旭日旗、慰安婦問題のように…
デモを取材した日本のマスコミもそこが疑問だったようで、「なぜ、日本メディアへの抗議を韓国で行うのですか?」と、「世界平和統一家庭連合 在韓日本信徒メディア被害対策委員会」のアン・ホヨル本部長に質問したところ、
「日本人信者が企画した行事であり、デモの場所の選定について私にはわかりません」
との返答が返ってきた。
デモは、あくまで在韓日本人信者の自発的行動であり、コロナ禍で渡航が難しい現状で、彼らは韓国内で今やれることをやっている。ということである。
しかし、多くの日本人はその真意を察しているだろう。
韓国で騒ぎを起こせば、ニュースは日本に伝わる。また、世界各国でも報道される。それが日本への圧力になると狙ってのことだ。これまで竹島や旭日旗、慰安婦問題などでも行われてきた常套手段である。
だが、その狙いは外れた。
韓国内では、このデモがニュースや新聞で取り上げられることはなく、SNSでもほとんど話題になっていない。他国でも同様。報道してくれたのは、彼らが糾弾する日本のマスコミだけという皮肉な結果に終わる。
韓国では宗教というより財閥グループ!?
日本で4000人が集まるデモが起これば、何であれ話題にはなるのだが、韓国は街中での集団示威行動が日常茶飯事というお国柄、この程度のデモは珍しくもない。数万人規模のデモがしょっちゅう起こっているのだから「小規模デモ」の部類だろうか。
また、歴史問題のように韓国民が共感できるような話でもない。
韓国のキリスト教徒は約1340万人。そのうちプロテスタントだけでも374の宗教団体が存在するのだが、異端視されるカルト教団も多く、旧統一教会は、これまで目立つことのない比較的地味な存在だった。
世界最多数を誇る日本人信者から吸い上げた金は、韓国の教団本部に送られて様々な事業に投資される。リゾート開発やショッピングモール、食品会社など50社以上の企業を傘下に収め、その総資産は日本円で6000億円以上と言われる。
そのため、韓国民の間では、宗教というよりは財閥グループといったイメージを持つ者も多いと聞く。それだけに、
「宗教弾圧をやめろ」
と叫ばれても、ピンとこない人は多いのではないだろうか…。「やっぱり、デモをやる場所を間違えているのでは?」
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社)、近著『明治維新の収支決算報告』(彩図社、2022年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。