正恩氏が発熱と与正氏明かす
8月も後半に入り、北朝鮮は、その独自の体制を色濃く出してきた。
北朝鮮メディアによると18日、平壌の4.25文化会館において金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、最大非常防疫戦に参加した朝鮮人民軍軍医部門の戦闘員たちを集め、激励し、国家表彰授与式を行い、集合写真を撮った。
これに先立ち、11日に金委員長は、新型コロナウイルスとの戦いに勝利したと宣言していた。
妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長は、金委員長が発熱の症状に見舞われたことを明かし、北朝鮮は、韓国が新型コロナ感染源であると主張し強力な報復を警告した。
金委員長の健康状態については明らかにしなかったが、韓国から飛ばされたビラが感染拡大の原因だと主張した。
韓国の脱北者団体などは、北朝鮮の体制を批判するビラや食料、医薬品などを付けた風船を北朝鮮に飛ばしていた。
与正氏は、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権がこうしたビラ散布を禁止する2020年の措置撤回を検討していると批判。
「韓国からの絶え間ないゴミの流入もはや看過できない」とし、韓国当局を「一掃」するとけん制した。
また、「致命的な報復措置」で対抗する必要があるとした。
尹大統領就任100日に巡航ミサイル2発
その予告通りなのか、北朝鮮がミサイル挑発を再び始めた。
尹錫悦大統領が就任100日記者会見を行った17日午前、北朝鮮は南浦特別市温泉郡一帯で西海上へ巡航ミサイル2発を発射した。
6月5日東海(日本名・日本海)上へ短距離弾道ミサイル(SRBM)8発を発射してから73日ぶりのことである。
北朝鮮のミサイル発射は、尹大統領が光復節(独立記念日)祝辞で北朝鮮の非核化と経済協力を連携した「大胆な構想」を明らかにし、米韓が16日から後半期合同演習「乙支(ウルチ)自由の盾(UFS・乙支フリーダムシールド)」の事前練習に入った直後に行われた。
タイミング的に北朝鮮にとっては、まさに大儀名分がそろったのであろう。事前にこの日を計画していた可能性も十分にある。
しかし、ミサイル発射について北朝鮮国内では、現在まで報道されていない。
大胆な構想=李明博政権のコピー版?
その代わり(!?)に、与正氏は、19日に尹大統領を名指しで批判し、この大胆な構想を全面的に拒否するという意志を明らかにしたのである。
北朝鮮労働党機関紙の労働新聞の1面に掲載された「空しい夢を見るな」と題した談話で、大胆な構想について、「青い海を干して桑畑を作るほど実現とかけ離れた愚かさの極致」とし、「(南側が)今後またどんな騒がしい構想をして扉を叩くのかは知らないが、私たちは、決して相手しないことを明確にする」と強調した。
また、「李明博(イ・ミョンバク)政権当時の対北政策である『非核・開放3000』のコピー版にすぎない」とも言及し、「歴史のゴミ箱に放り込まれた対北政策を写して『大胆』という表現まで付けたのは実に馬鹿らしい」と指摘した。
しばらく与正氏の動向がなかったようにもみえたが、ここに来て、また彼女の活動が注目される。
宮塚 寿美子(みやつか すみこ)
國學院大學栃木短期大學兼任講師。2003年立命館大学文学部卒業、2009年韓国・明知大学大学院北韓学科博士課程修了、2016年政治学博士取得。韓国・崇実大学非常勤講師、長崎県立大学非常勤講師、宮塚コリア研究所副代表、北朝鮮人権ネットワーク顧問などを経て、2014年より現職。北朝鮮による拉致被害者家族・特定失踪者家族たちと講演も経験しながら、朝鮮半島情勢をメディアでも解説。共著に『こんなに違う!世界の国語教科書』(メディアファクトリー新書、2010年、二宮皓監修)、『北朝鮮・驚愕の教科書』(宮塚利雄との共著、文春新書、2007年)、『朝鮮よいとこ一度はおいで!-グッズが語る北朝鮮の現実』(宮塚利雄との共著、風土デザイン研究所、2018年)、近共著『「難民」をどう捉えるか 難民・強制移動研究の理論と方法』(小泉康一編者、慶應義塾大学出版会、2019年の「「脱北」元日本人妻の日本再定住」)。