是枝裕和監督のカンヌ受賞映画を夫婦で鑑賞
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領夫人の金建希(キム・ゴンヒ)氏は、人目を引く美貌(びぼう)を含めて、その立ち居振る舞いは、常に衆目の監視の下で一挙手一投足が連日、大きく報道されている。
12日には、夫婦そろってソウル市内の映画館に出かけ、一般客に混じって是枝裕和監督のカンヌ受賞映画「ベイビー・ブローカー」を鑑賞した様子がニュースになっていた。
上映前に夫婦でポップコーンや飲み物を買うシーンでは、店員とのやりとりまで含めて、しつこく撮影され、「ポップコーンの味はカラメルでいい?」などという夫婦の会話が音声つきで何回も放送されていた。
この日の午前、北朝鮮は黄海に向けて多連装ロケット砲5発を発射していて、そんななか映画鑑賞などして良いのかという批判もあった。
しかし、実は、その日の午後、大統領執務室前の「龍山公園」の芝生では、カンヌ映画祭で主演男優賞を取った俳優ソン・ガンホなどを招いて祝賀セレモニーが開かれていて、それを前に主演映画を実際に目にしておく必要があったようだ。
この祝賀セレモニーには金夫人も参加していた。
故廬武鉉の未亡人からの励まし
翌13日には、金夫人は単独で、慶尚南道金海市の烽下村を訪れ、廬武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の墓前に献花したあと、未亡人の権良淑(クォン・ヤンスク)氏と1時間半にわたって面談した。
この訪問は、歴代大統領の関係者の中で、大統領就任式に出席しなかった盧元大統領の夫人に挨拶するためだった。
この席で権氏からは、「ファーストレディーとして悩みも多いと思うが、しっかり準備をして本来の役割に忠実に果たしてほしい」と励まされたという。
「内助に徹する」と約束したはずなのに…
しかし、そのファーストレディーとして役割について、この烽下村の単独訪問を含めて、野党「共に民主党」からは、「ファーストレディーとしての活動を本格化させた動き」だとして警戒と批判の声が出ている。
あらゆるメディアが微に入り細に入り、その一挙手一投足をさんざん取り上げておいて、ファーストレディーがファーストレディーとしての活動をすることに疑問を差し挟むのには、実は、伏線があった。
大統領選候補の時から、夫の尹錫悦氏以上にその存在は注目され、かつて大学の臨時講師に応募した際の経歴詐称問題では厳しい批判にもさらされた。
その経歴詐称を巡る謝罪会見で誓ったのが、「これからは内助に徹する」という言葉だった。
結局、選挙戦では、他の候補が夫婦そろって選挙運動を展開したのに対し、金夫人は一度も、表に出ることはなかった。
尹大統領も、選挙戦の公約で、大統領夫人を補佐するスタッフを置いていた大統領府第2付属室を廃止するとし、ファーストレディーを意味する「令夫人(ヨンプイン)」という呼称は使わないなどと約束してきた。今、メディアが金氏を呼ぶ呼称は「金女史」である。
ファンクラブが先に公開する夫人動静
ところが、実際に大統領に就任すると、夫人の行動は、ますます注目されるようになった。
野党側が、金氏のファーストレディーとして目立ち過ぎる行動に警戒感を示すのには、もう1つ理由がある。
金夫人は、愛犬2匹を連れて夫の大統領執務室を訪れたり、大統領執務室の前の芝生広場で愛犬を遊ばせたりするシーンが写真に撮られ公開されたことがあるが、これらの写真が最初に公開されたのは、夫人のファンクラブが運営するフェイスブックを通じてだった。
大統領室の広報担当者は、いっさい関与していなかったと言われる。
野党の懸念は、大統領夫人の行動を管理し、記録する公的な機関がないことによって、夫人の行動は、ある意味、野放しになっていて、何か間違いや問題が生じたときには、国家的な大事故になる可能性もあるとみているのだ。
金夫人は、6月末にスペインで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席する尹大統領の初の海外訪問に同行するのではないかとみられている。
金夫人は画家であり、芸術分野で博士号を持ち、大規模な展示会や芸術イベントを企画、主催する会社を運営する実業家でもあった。そうした学識や教養を手に夫人外交を展開すれば、国益にも貢献できるはずだ。
しかし、韓国の政界は、ファーストレディーの手足を縛ることしか関心はないようだ。
小須田 秀幸(こすだ ひでゆき)
韓国在住4年目。KBSワールドラジオ日本語放送で日本向けニュースの校閲を担当。日韓の歴史の舞台となった場所を訪れ、韓国の今を紹介するコーナー「ノッポさんの歴史ぶらり旅」をKBS日本語放送のウェブサイトとYouTubeで発表している。