タイ平均世帯年収9万円だけど2割も達していない
東南アジア各国は、物価上昇が著しいが、同時に所得も上がっている世帯も少なくない。
しかし、欧米や日本のようにすでに物価の高い国からすればまだ物は安いし、そのため、まだ発展の途上にあると思われがちだ。
東南アジアの一部の国の人々は、いまだ自分たちの国、東南アジアは貧しいと思い込んでいることも少なくない。
これは各国に所得格差問題があるのも1つの理由だ。
たとえば、タイは平均世帯収入が2万6000バーツ(約9万円)だが、タイ国内で平均かそれ以上を稼ぐ世帯は実際には20%もないくらいだとされる。平均値と中央値は違うからだ。
月収99万円の人と1万円の人を並べて「平均収入は50万円」といっているようなものだ。
そのため、貧困層の収入は、物価上昇に追いつかないレベルで低く、明日も読めない文字通りその日暮らしを余儀なくされる。
首都バンコクは、東京に引けを取らないくらい発展して都会だ。しかし、貧困者層が多い一方で、政府の貧困者救済はこれといって進んでおらず、外国の慈善団体などが支援をしているのが現実だ。
人身売買?家族を守ってくれる良い人?
そういった格差社会の隙を突くような事件も多数起こっている。
数十年前は、タイ北部に住む山岳少数民族などの子供たちの人身売買の問題があったとされる。
1970年代には、日本人男性が11人の妻と未成年者の2人の養女と暮らしていた事件もあった。人身売買では立件されず、違法薬物の事件で起訴され、その日本人は国外に追放されている。
2010年には、韓国人がタイで554人の子供を養子にし、兵庫県尼崎市に子供手当約8600万円を申請した。
タイの修道院や養護施設の子供たちを養子にし、タイ政府の正式な書類もあった。しかし、厚生労働省は、生計が一緒ではないので給付対象外と判断。
子供たちの食費や生活費を安く見積もっても1億円近くはかかるはずなので、不正に利益を得るための申請には見えないものの、常識的な範疇(はんちゅう)を超えている案件と言える。
先の国外追放された日本人は、その後、カンボジアに移住し、そこでまた60人の女性と暮らしているという報道があった。
普通に見ると人身売買や小児性愛者のような印象を受けるが、現地(特に当事者の保護者など)では、生活支援をしてくれる良い人とみられている場合もある。
貧困ゆえ、むしろ家族を守ってくれる人と思われているのだ。
韓国人や日本人の事件でタイの法令が変わることも
他方、違法ではないものの、タイの法令を改正させるようなケースもある。
2014年に日本人男性がタイ国内で代理出産を利用し、少なくとも19人の子供を作っていた事案が起こっている。
当時の報道によれば、19人のうち17人がタイ国内で生まれ、6人が事案発覚時には、すでに日本やカンボジアで養育されていた。その後、13人がタイ政府の保護下にあったが、2018年、日本で暮らすその男性の親権が裁判で認められ、引き渡されることになった。
男性は資産100億円超ともいわれる独身の資産家で、そういった条件も養育に問題はないと判断されたようだ。
日本人とタイ人女性、あるいは、韓国人とタイ女性の間で子供ができ、しかし、出産前に行方をくらませる男性もいる。
そう見れば、この男性は、当時の法令に違反するでもなく、子供たちを養うだけの財力もその意志もあった。
しかし、タイ政府はこれを問題視し、法令を改正。
それまで代理出産は外国人でも可能だったが、2015年の改正でタイ夫婦、もしくは、婚姻3年以上の外国人とタイ人の夫婦のみしかできなくなっている。
タイは、医療レベルが東南アジア内ではかなり高く、タイ政府も医療ツーリズムに力を入れている。
しかし、こういった外国人による個人的な考えに基づいた行動で規制されることもあり、本当に悩んでいる人が利用できなくなることも起こっている。
高田 胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター。2002年から現在にいたるまでバンコクで過ごしている。『バンコクアソビ』(イースト・プレス・2018年)、『バンコク 裏の歩き方【2019-20年度版】』(彩図社、2019年・皿井タレー共書)、『ベトナム裏の歩き方』(彩図社、2019年)など、近著『亜細亜熱帯怪談』(晶文社、2019年・監修丸山ゴンザレス)。
@NatureNENEAM
在住歴20年が話したい本当のタイと見てきたこととうまい話と(note)