韓国人男が起こした日本人監禁事件
いよいよタイも5月1日から入国時のPCR検査などを全面廃止する。これによってタイ旅行を望んでいた外国人たちが戻り始めることだろう。
しかし、気をつけたいのは犯罪被害だ。
元々タイは、外国人が犯罪に巻き込まれるケースが多い国で、在タイ日本大使館の邦人保護件数も世界中の在外公館の中で何十年もワースト1位であり続けてきた。
被害で多いのは窃盗などのようだが、近年は外国人による犯罪被害も少なくない。
日本人同士は接点を持ちやすいことで、その件数も増加している他方、タイ以外の外国籍者の犯行の被害に日本人が遭うケースも起きている。
2019年1月には、韓国人で27歳の無職の男が、3人の日本人男女を最長3か月監禁し、脅迫の末、日本円で1000万円以上を脅し取った容疑で逮捕された。
出会い系サイトで知り合った24歳の日本人女性を監禁して脅し、のちに弟を日本から呼び寄せ、さらに弟の友人もバンコクに呼び出されて軟禁状態にあった。
犯人は逮捕後、警察署内の留置場で死亡。病死とみられ、事件の真相は謎のままになっている。
日本人女性の大きな失敗
日本人男女らは監禁・軟禁の際に韓国人の男から「友人にマフィアがいる」「タイ警察の仲間に出国させない」「逃げたら殺す」「殺して臓器を売る」などと脅され、身体的な暴力も日常的に受けていた。
これによって被害者らは、委縮あるいは洗脳された状態になり、逃げることができなかったとみられる。
こういった犯罪を回避するためにはどういった方法があっただろうか。
まず、最初の被害者である女性は、出会い系サイトで見ず知らずの人の自宅に安易に入ってしまったという。初手で大きな失敗をしていると言える。
タイ人は、タイ人同士、しかも互いの実家を知っているような仲でもいきなり1人で異性の家に上がることはしない。
残念ながら自由な国に見えるタイでも、誰であれある程度相手のことを知ってからでないと人間関係の距離感を縮めるべきではない。
本物のマフィアなら口ではなく先に手が出る
日本人でも、ろくでもない人ほど「誰それと知り合い」という文言をよく使う。
特にその時に出てくるのがマフィアや警察だ。これも9割くらいのケースでハッタリであるので、あまり気にする必要はない。
中には、本当に警察と知り合いの場合もあるものの、ほとんどは下士官など、それほど権力のない警察官なので恐れる必要がない。
確かにタイでは、マフィアよりも警察の方が権力がある。
しかし、マフィアも実際にいる。ただ、こういった口先だけの場合は、基本的には怖がる必要はない。
マフィアの場合、実力を目に見える形で出し、脅しをかけるケースが多い。マフィアの友だち、あるいは、自分がマフィアだと誇示する場合、多人数で取り囲み、口ではなく手が先に出てくるので、それがない場合は、ただの脅しと受け取っていいだろう。
韓国人男の日本人監禁であった「臓器売買」は可能なのか?
韓国人男の日本人監禁であった「臓器売買」は可能なのか?
「臓器売買」に関しても現実的ではない。
医師のほか、仲介者などが必要で、小さい規模でできるものではなく、現在のタイでは、利益とリスクのバランスが悪いと考えられる。
かつては、北部の山岳少数民族などの貧困層を中心に子供の人身売買があったとみられる。
国際労働機関(ILO)が2017年に発表した「現代奴隷制の世界推移」では、2016年に世界で約4030万人が人身売買の被害に遭い、そのうちの2490万人が強制労働に従事させられたと報告されている。
この4030万人の71%が女性、37%が子供だった。地域別では、アフリカ地域の被害が一番多く、次に多いのはアジア・太平洋地域だ。
この被害者らの多くが強制労働や強制結婚などとされ、臓器売買については、具体的な数値は不明だ。
近年、一般的にはインドや中国で臓器売買の問題がよく起こるという疑いがあって、タイの名前は少なくとも臓器売買関連ではあまり出てこない。
タイは、今も子供の誘拐などは起こっており、身代金目的の営利誘拐よりは、強制労働などが多いと言われる。
臓器売買の場合は、犯行に協力する人員だけでなく設備の規模も大きくなければできない。
政府も医療ツーリズムで外国人患者を誘致しようとしている。そんな中で国際的世論に逆行するような臓器売買は行われないだろう。
そもそも、タイの警官などは人間関係の機微に異様なまでたけている。外国人と組んで罪を犯すならそれなりの報酬がなければ手を出さない。
先の韓国人の犯行では、被害額は1000万円ほどとされるが、こんな小さな額では共犯者になってくれない。
要するに、こういった要求額から相手の脅しをただの口先だけと判断するのも1つの手である。
高田 胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住ライター。2002年から現在にいたるまでバンコクで過ごしている。『バンコクアソビ』(イースト・プレス・2018年)、『バンコク 裏の歩き方【2019-20年度版】』(彩図社、2019年・皿井タレー共書)、『ベトナム裏の歩き方』(彩図社、2019年)など、近著『亜細亜熱帯怪談』(晶文社、2019年・監修丸山ゴンザレス)。
@NatureNENEAM
在住歴20年が話したい本当のタイと見てきたこととうまい話と(note)