ソウルで新型コロナウイルスに感染
昨年1月に姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使の就任が決まった時、韓国政府は大きな期待を寄せていた。
彼の手腕で日韓関係も好転すると、韓国マスコミでも好意的な記事が目立ったのだ。
しかし、期待するあまりに先走り、韓国政府は、日本からアグレマン(政府同意)を得る前に大使内定を発表してしまう。
日本側はこれを「外交的非礼」と激怒。へそを曲げたのか、当時の菅義偉首相や外相は会談を拒み、姜大使は、まったく仕事ができない状態が続いていた。
あれから1年が過ぎ、日韓関係はいまだこじれ続けたまま。姜大使の話題は、まったく聞かれなくなっていたのだが、
「駐日韓国大使、新型コロナに感染して1か月間ソウルに…業務空白を懸念」
このようなタイトルの記事が中央日報日本語版に載った。
配信されたのが4月1日だから、これはエイプリフールのネタかと思ったが、どうやらウソではなさそう。
韓国大使が1か月以上不在でも誰も気がつかない。日韓両政府は、まったく気にしてなさそう。それほど影の薄い存在になっていた。
まずかった大統領選直前の帰国
記事によると姜大使は、3月4日に健康診断を受けるため韓国に帰国。日本に戻るために3月18日にPCR検査を受けたが陽性判定となり、3月24日の検査でも陽性に。このため、韓国内に留まり隔離されている状態だという。
健康診断などでの一時帰国は正当な理由ではあるのだが、大統領選挙直前という時期に帰国したのはまずい。
韓国の新体制が決まれば、日本政府もその情報を欲するだけに駐日大使の外交活動がより重視される。
何もそんな時に。と彼の政治感覚の鈍さを批判する意見もある。
しかし、姜大使は、もともと韓国の国会議員で、韓日議員連盟会長を務めたこともある大物政治家なのだが…。
政治家になる以前は日本に留学し、日韓近代史を学んだ韓国政界有数の知日家。
日本の政財界にも太いパイプがある。彼が駐日大使に選ばれたのは、そのあたりの経歴に期待してのことだろう。
誰もまねできない珍記録を残して退任か!?
結果は散々なものだった。
通常ならば主要国の大使は、着任時すぐに首相や外相との会談がセッティングされる。ところが、姜大使が会談を申し込んでも「多忙」などを理由に日本側はまったく相手にしない。
昨年5月末になって天皇に信任状を棒呈し、やっと正式に大使就任を認められた。が、この時も茂木敏充外相は「大使としての活躍、適切な対応を期待する」と言うだけで、面会や会談については、まったく触れることはなかった。
その後、菅政権から岸田政権に交代しても、相変わらず首相や外相との会談は実現していない。
大統領選挙の結果、姜大使が所属していた共に民主党は野党に転落した。
新政権発足後は、新たな駐日大使が就任する可能性が高い。そうなれば、姜大使はこのまま日本に戻ることなく退任ということも十分にあり得る。
1度も日本の首相や外相と会談しなかった韓国大使…。これは、日韓史の上でもまれなこと。
大使としての業績はなかったが、誰もなし得なかった珍記録は残すことができそうだ。
姜昌一駐日韓国大使が到着 日韓関係の正常化に意欲(2021年1月22日)
掲載できる写真がないのでこちらを載せておく。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。