北朝鮮がロシアを擁護
3月2日の国連緊急会合で、ロシアによるウクライナ侵攻の非難決議が圧倒的多数で採択された。
反対票を投じたのは、戦いの当事者であるロシアを含めてわずか5か国。その中には北朝鮮も名を連ねている。
「すべては米国の覇権主義が原因だ」
と、北朝鮮の金星(キム・ソン)国連大使は、ロシア擁護の熱弁を振るった。
中国などは、すでにロシアを見限り始めていると伝えられるが、それと比べても温度差がある。ベラルーシと同様にロシアにとっては、最も頼りになるサポーターと言えるだろう。
北朝鮮がロシア擁護に熱心な理由は、政治や軍事以上に経済的な問題が大きい。
ロシアは最も多くの北朝鮮人労働者を受け入れている国だ。北朝鮮の出稼ぎ労働者たちは、政府がその人物を厳しく審査し、契約した企業や農場へ必要な人数を送り込む。
労働者の給料は、本人ではなく北朝鮮政府に支払われ、賃金の約8割は政府の取り分になるのだとか。
北朝鮮にとってロシアへの出稼ぎ労働者派遣は、外貨獲得の重要な手段となっている。
北朝鮮の最も重要な輸出品は“労働者”
2017年には国連安保理の決議により、北朝鮮の国外労働者へのビザ発給が禁止され、2019年までに本国へ送還するよう決められた。これによって労働者派遣による収入の道も断たれることになる。
ロシアも表向きは決議を受け入れ、この年には9000人の北朝鮮人労働者に対してビザ申請を却下した。が、抜け道は多くあるようで、米国務省では、ロシア国内には、いまだ2~8万人の北朝鮮人労働者がいると推定している。
特に極東地域では、建設業や農業、林業、サービス業などあらゆる産業分野で北朝鮮からの出稼ぎ労働者を見かけるという。
今、北朝鮮の重要な外貨稼ぎの輸出品は労働者と言える。
ロシアは労働ビザの発給は停止したが、留学や研修目的のビザは発給し続けている。留学生や観光客として入国し、ロシア国内で働く者は多い。もちろん違法ではあるが、ロシア当局が目をつぶれば発覚することはない。
今後、どこまで北朝鮮人労働者を受け入れるか。それはプーチン大統領の考え次第…。
北朝鮮が必死にロシアを擁護して機嫌を取ったのもわかる。
北朝鮮人労働者の大量リストラが予測される
しかし、それでも北朝鮮人労働者の雇用に関しては先行きが暗い。
今回のウクライナ侵攻で、欧米はロシア側の予想をはるかに上回る経済制裁を断行している。
ロシアの銀行は、米ドル取引を拒否され、企業のビジネスにも多大な影響が出てきた。
今後は不況による雇用状況の悪化が予測され、そうなれば、どこの国でもまずリストラの対象となるのは外国人労働者。
いくら北朝鮮政府が、ロシアを擁護して味方をアピールしても、経済が苦境に陥れば、北朝鮮人労働者の首を切るしかない。大量リストラが始まる可能性は高い。
また、ウクライナ侵攻が始まってからは、北朝鮮政府は出稼ぎ労働者に対する監視を強化しているという。
労働者たちは、以前から国家保衛部などから派遣された引率者によって監視され、自由行動を制限されていた。
それでも職場や宿舎から逃亡する事件は頻発している。ロシアの混乱に乗じて逃亡者が増えるのではないかと、警戒を強めているようだ。
また、労働者の逃亡や亡命を手助けするNGOの活動も活性化していると伝えられる。
ウクライナ侵攻の影に隠れて、ロシア国内では北朝鮮人労働者を巡る暗闘が繰り広げられている。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。