果敢な判断を下した韓国政府
新型コロナウイルスが、世界中に蔓延するようになってから、すでに2年の歳月が過ぎている。
世界各国で接触機会の低減を狙った様々な感染対策に辟易(へきえき)し、感染対策措置の撤廃や緩和を求める声が大きくなってきた。
日本でもまた「まん延防止措置」の延長を巡って、
「命をとるか。経済をとるか」
と、国会やマスコミなどで激しい議論が展開されている。が、いまだ答えは見つからず。政治家たちも決めかねている状況なのだが、お隣の韓国では、政府がこれに関する果敢な決断を下して話題になっている。
大統領選が規制緩和を促進した
韓国政府は、2月18日に午後9時までだった飲食店の営業時間を延長して10時とするなど、感染対策措置の一部緩和に踏み切った。
この措置は3月13日まで適用され、その後の状況を調査して今後さらに制限を緩和するかどうかを検討するということだったのだが。
しかし、その期限である3月13日を待たずに、韓国政府は緩和をさらに進める方向に動く。
3月5日から飲食店の営業時間をさらに1時間延長し、午後11時までとすると発表したのである。
政府の中央災害安全対策本部が3月2日から2日間にわたり、専門家や各自治体などの意見を集めて検討した結果だという。
弱毒化したと言われるオミクロン株だが感染力は強い。
そのため、これまでの韓国政府は、「感染者が増えれば、それだけ被害は大きくなる」として、制限緩和を求める意見を退け、流行のピークが過ぎるまでは、防疫措置を維持するという方針を守り続けてきた。
だが、ここにきて1週間以上も決定を前倒して、さらなる緩和を決定。その果敢な政治決断は、
「大統領選を意識したのだろう」
多くの韓国民がそうみている。
大統領選で劣勢の与党が、巻き返しを狙って国民の機嫌を取ろうとしている。文在寅(ムン・ジェイン)政権お得意のポピュリズムが、最後の最後になってまた発動された、と。
非常識なのは韓国?それとも日本なのか?
ここで韓国の感染者数の推移を見てみよう。
飲食店の営業を午後10時に延長してから5日後の2月23日は約17万人。2月27日になると13万9615人にまで減ったが、その後は再び増え続ける。
中央災害対策本部が検討に入った3月2日は19万8802人、制限のさらなる緩和が決定された3月5日には24万3612人だった。3月中旬には、感染者数が1日最大で35万人に達すると保険当局は予測している。
日本の常識で判断すると、とても制限緩和に踏み切れるタイミングではない。
しかし、「日本の常識は、世界の非常識」とは、昔からよく言われる。実際、欧米でも感染者が激増している状況で規制緩和や全面撤廃に踏み切った国は多い。
治療薬の開発やウイルスの弱毒化によって脅威はかなり軽減し、経済を秤(はかり)にかけて、世界は“アフターコロナ”にかじを切っているようだ。
いまだ「まん延防止法」の解除に二の足を踏む日本政府こそが異常で、韓国政府の決断は極めて当たり前のこと。と、他国からは見られているのかもしれない。
例えその理由が「防疫」よりも「政治」にあったとしても…。
文政権が防疫を捨てて出た最後の賭けは、16日に感染者数62万1328人で世界1位をもたらし、与党候補の惨敗という結果となった。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。「さんたつ by 散歩の達人」で連載中。