世界3位の核大国だったウクライナ
ウクライナに武力侵攻したロシアに、国際社会からの批判が集中しているが、今回の事態は北朝鮮にとっても人ごとではない。
かつて世界3位の核大国だったウクライナは、説得に応じて核を放棄し、「丸腰」になっていたからだ。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、非核化に絶対に応じてはならないと考えているはずだ。事態は、間違いなく朝鮮半島に飛び火するだろう。
ウクライナからミサイル技術を盗む
ウクライナは旧ソ連に含まれており、西側諸国に隣接していたため、核兵器が集中的に配備されていた。
1991年にソ連が崩壊した時、1800を超える核弾頭と大陸間弾道ミサイルが残った。しかし、経済難に直面、核兵器関連部品の密売も横行した。
北朝鮮は、混乱していたウクライナを舞台にミサイルへの燃料供給システムを盗み出そうとし、北朝鮮人2人が逮捕されている。
ウクライナでは、残された核兵器を保有し、ロシアに対抗して自分たちでも核開発を行うべきだという意見も根強かった。
しかし、1986年に、ウクライナにあったチェルノブイリ原発が深刻な事故を起こしたため、核保有国となるべきではないとの意見も強く、国内で対立が続いた。
核放棄に応じたばかりに
核放棄に応じたばかりに
そんな中、米国がウクライナに対して、体制の保証や経済援助を約束するので、核を放棄するよう求めた。1994年のことだ。
ウクライナも最終的に応じ、米国と英国、ロシアと覚書を交わした。「ブダペスト覚書」と呼ばれる文書で、北朝鮮の非核化のモデルにもなっている。
ところが、2014年にロシアが軍事的な要衝であるクリミア半島を併合すると、米英とロシアの対立が激しくなり、覚書は事実上白紙化された。
ロシアと欧米の間に、無防備に近い状態で放り出されたことになる。
今年に入ってロシアとウクライナ間の緊張が急激に高まった。それを意識したかのように北朝鮮もミサイルの発射を7回も行った。先端技術を使った極超音速ミサイル試験に成功したとも主張した。核実験の再開も示唆している。
実は、米国は、核開発を進める北朝鮮に対し、再三、先制攻撃を検討してきた。
これは同盟関係にある韓国に事前協議事項する義務はないと解釈されている。いきなり、北朝鮮の核やミサイル関連施設に爆撃を加えることがあり得るのだ。
ちょうど韓国では、大統領選が行われており、保守系最大野党「国民の力」、尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補が優勢だ。
尹候補は、米国との同盟強化や北朝鮮への先制打撃力の強化を訴えている。正恩氏にとっては、不安な状況になっていた。
第2のウクライナにならない
北朝鮮が挑発を繰り返しているのは、バイデン政権がウクライナ問題の対応で手いっぱいになっている間に「自分たちは第2のウクライナにはならない」と、米国や韓国にアピールするつもりなのだ。
今後もミサイルの発射を繰り返すとみていいだろう。
北朝鮮は、ロシア支持をはっきりさせている。ウクライナ問題が浮上した後、米国を批判し、ロシアを支持する声明文を同国の外務省ホームページに載せたこともある。さらにロシアとの経済関係の強化も進めている。
朝鮮半島でも「中ロ北」VS「米韓」という新冷戦が始まるかもしれない。もちろん、日本も巻き込まれるに違いない。
五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)など、近著『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)。
@speed011