中国国内向けの演出

中国国内向けの演出

北京五輪の演出で韓国が中国へかみつく

 「はい、はい、全宇宙すべて韓国人のものだよ」

 こんな皮肉が中国のSNS微博(ウェイボー)で確認できる。

 発端は、北京冬季五輪の開会式での民族融和演出だった。韓国が中国朝鮮族とみられる女性が民族衣装で登場した演出へ「中国が韓服を略奪した」と強くかみついたのだ。

 中国政府は、最後の聖火点灯に世界中からジェノサイドだと糾弾するウイグル人(中国的には族)の女性選手を登場させるなど今回の北京五輪を1936年のベルリン五輪を思い出せるような体制の肯定化や宣伝に利用していることは疑いようもない。

 わざわざウイグル人を登場させたのは、海外向けよりも中国共産党の統治成果を国内向けにアピールする狙いが強いとみられる。

 中国政府が常に意識しているのは内政である。国民であり、少数民族であり、併合した地域であり、中国共産党の党軍である人民解放軍であろう。

中国朝鮮族もあきれる

 今回の「韓服騒動」について、中国遼寧省瀋陽で会社を経営する朝鮮族男性は、

 「暇ですね(笑)。最初はいつもの狂った学者がほえているのだと思っていたら、有力大統領候補2人も同じことを発言している報道を見てげんなりしましたよ。同時にそう言わないといけない異常な圧力が韓国を包んでいるんでしょうね。まあ、かわいそうな人たちです」

 この男性は、中国の報道をベースに韓国や日本の報道にも常に接して比較している。

 他にも中国在住の朝鮮族や中国人に聞いてみると、「心が歪んでいる」「小さな国」「誰も中国発祥とは言っていない」「劣等感の塊」「強欲すぎる」「なんでも韓国ものという発想は理解できない」「朝鮮族の大切な民族衣装、何が問題なの?」
 
 と、完全なノンフォロー状態。

 より辛辣なコメントが並ぶウェイボーの中には、「たとえば、在外漢人が自分たちのアイデンティティーの象徴として漢服を着るようなものだろう。朝鮮民族の象徴として朝鮮服を着ることはごく自然なこと。韓国の批判は、筋違いも甚だしい」などの冷静なコメントもある。

 と、ここまでは、中国側の視点を紹介した。確かに、今回の韓服騒動だけを切り取って見ると、韓国の反応は過剰であると感じる人も多いと思う。

 しかし、韓国がこれほどまで文化の略奪だと叫ぶ背景もありそうだ。

「朝鮮半島は中国の一部」既成事実化を進める中国

 韓国メディアを見ると、「韓服工程」「文化工程」の表現が確認できる。

 これは中国共産党の朝鮮半島史観や長期戦略とされる「東北工程」に由来する言葉で、端的に書くと、朝鮮半島は、歴史的にも文化的にも中国の一部にすぎないという史観、考えとされる。

 その切れ端を中国の百度(バイドゥ)が運営する百度百科で確認できる。

 百度百科で韓服と検索すると、朝鮮族衣服の記事へ飛ぶ。記事内で韓服という言葉は、冒頭で薄く小さく「韓服=朝鮮族衣服の同義語」のみで他には1語も登場しない。

 記事では、「朝鮮族の民族服で朝鮮半島や朝鮮文化に深く関係し、隋や唐の衣装の特徴を継承している」と説明している。

 韓国は、今回の韓服だけなく、昨年もめたキムチなどの起源問題が積み重なった結果の不満爆発といったところだろう。

 中国政府は、東北工程に基づくように今年も着々と既成事実化を推し進めるとみられる。このあたりは、中国人も朝鮮族であっても長年にわたり刷り込まれている影響か、あまり認識していないように感じる。

 ちなみに、現時点では、北朝鮮からこの問題についての言及は確認できない。

 北朝鮮は、当然ながら韓服とは呼ばないこともあり、この問題での南北連帯はないと思われる。

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