外資の撤退は日本の輸出管理規制前から
2021年4月には、米国のシティ銀行が韓国からの個人金融事業撤退を決定し、10月末には、カナダのノヴァ・スコシア銀行もソウル支店を閉鎖した。
韓国は、外資だけではなく、サムスン電子や現代自動車といった国内企業も生産設備をインドやベトナムなどに移して空洞化が進み、資本流出に歯止めがかからない状況だ。
企業の「脱韓国」は、日本の輸出規制管理強化が始まった2019年から始まった。と、これについても日本のせいにしようする者が、韓国には少なからずいる。
確かに、2019年には173社の外資系企業から韓国から撤退しており、2018年の68社、2017年の80社に比べると急増しているのは間違いない。
しかし、外資の撤退は、日本の輸出管理規制以前からすでに始まっていた。
2013年には、HSBC(香港上海銀行)が韓国内の10支店を閉鎖し、2017年には、ゴールドマン・サックス、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)も撤退を完了するなど、世界の大手金融機関が韓国での事業を次々に清算している。
まあ、日本のせいにしてしまえば気が楽なのだろうけど…、しかし、本当の原因は、もっと根の深いところにありそうだ。
製造業は激しい労働争議に嫌気がさす
実は、韓国への直接投資残高の推移を見れば、2005年をピークにグラフが下がり続けていることがはっきりと見てとれる。
日本の輸出規制管理強化よりもはるか以前から外資の撤退が始まっていたということだ。
韓国では、企業運営のコスト高が問題になっている。
この近年、韓国の最低賃金は、すさまじい勢いで上昇。文在寅(ムン・ジェイン)政権発足以来、その上昇曲線がさらに急角度を描くようになった。
2020年までは、最低賃金が毎年10%以上も上がり続け、今や日本と同水準。
それに加えて、企業の首脳たちは、過激で激しいことで有名な労働団体の賃上げ要求に悩まされている。
有力企業では、労働組合の力が特に強い。毎年のように大規模なストライキが行われ、工場では操業が長期間停止する。
2019年に韓国から撤退した企業を産業別に見てみると、製造業が46.2%と全体のほぼ半数になっている。
労働争議のリスクを最も多く被ることになる業種なだけに、この状況には嫌気がさすのもわかる。
ハイリスク・ローリターンの韓国を見限る
また、外国金融機関の投資意欲が減退したのは、ビジネスモデルが崩壊したからだろう。
昔は他国から低金利で借りた米ドルを韓国で運用すれば、高い利益を上げることができた。近年の低成長と低金利でそれが不可能に…。
しかも、韓国は、日本や欧米よりも金融危機に陥るリスクがずっと高い。
これまでは、大きな利益があったから危険を承知で投資してきた。が、「儲からないとなれば、こんなリスクの高い国に居座る理由はない」となるわけだ。
家計債務比率170%突破で金融危機迫るか
どうやら韓国の金融危機のリスクは、いよいよ限界点に達してきたようでもある。
昨年10月、韓国メディアの「韓国経済」が「家計債務の急増による金融危機」として警告を発している。
韓国の家計債務の多さは以前から指摘されていた。
それがコロナ禍による不況の影響もあり、昨年1~3月には、GDP(国内総生産)に対する家計債務比率が105%となり、ついに危険水域を突破したという。
不動産価格が急騰したことで、住宅購入資金を工面するために無理をして金融機関から借入するようになった。
また、マイホーム購入を諦めた若者層の間では、金を借りて非生産的な投資に走るのがブームになっているが、これも家計債務が増えた要因だという指摘もある。
「ケンチャナヨ(大丈夫)」
と、先々のことを深く考えずに無茶な行動に走る韓国人気質。
返済のことを考えずに無理な借金をする。それがために、家計債務は減るどころか、その後も増え続けている。昨年4~6月期には、170%にも達しただろうと予測されている。
もはや、いつ金融危機が起きても不思議ではないのだとか。
外国企業にとっては、そんな韓国と心中する義理はない。日本の輸出規制がなくとも、逃げたくなる状況ではある。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。