「海外同胞」について初法制化か
北朝鮮国営メディア・朝鮮中央通信によると、12月14日に開催された最高人民会議常任委員会総会において、来年2月6日に最高人民会議第14期第6回会議(国会に相当)が招集されることとなった。
同通信は、会議の議題の1つとして、「海外同胞権益擁護法」の採択に関する問題が討議されると伝えている。
「海外同胞」とは、在日コリアンをはじめ、中国や米国などに居住する在外朝鮮人を指す。
北朝鮮には元々、国籍法や対外民事関係法など、在日コリアンたちを念頭に置いた法律はあったものの、海外同胞を直接規定する法律は確認されていない。
新法の詳細は不明だが、海外同胞について規定した初めての法律になる見込みである。
今年1月の党規約改正で海外同胞に言及
海外同胞権益擁護法の兆候は、今年1月の第8回党大会ですでにあった。
党規約序文に「海外同胞の民主的民族権利と利益を擁護、保障し、海外同胞を愛国・愛族の旗印の下に固く結束させ、民族的自尊心と愛国的熱意を呼び起こすことに関する内容」を追加したと発表したのだ。
憲法には、元々「朝鮮民主主義人民共和国は、海外に在住する朝鮮同胞の民主主義的民族権利と、国際法によって公認された合法的権利と利益を擁護する」(15条)と記されていたが、党規約は、これより一歩踏み込んだ内容となった。
ただ、憲法も党規約も、あくまで原理原則であり、法的効果が発生するものではない。そのため、今回討議されることになった海外同胞権益擁護法は、このような基本方針を法制化するものと考えられる。
新法における海外同胞の定義
法律の中で、海外同胞をどのように定義するか注目である。
同法における海外同胞を「朝鮮民主主義人民共和国の国籍を有する海外公民」に限定するのか、「国籍変更した者も含めた広義の海外同胞」を指すのかで、大きく意味が異なってくるからだ。
もし前者の海外公民の定義に限定してしまえば、在日コリアンの間でも、韓国籍や日本国籍への変更者との間で線引きがなされることになる。
近年、「朝鮮民主主義人民共和国の在外公民」という認識を持つ在日コリアンの間でも、様々な理由から国籍変更する人が増えている事情を踏まえると、分断を避け、広範な定義になるのではないかと考えられる。
ただ、後者の定義(広義の海外同胞)の場合には、他国の管轄下にある外国籍者に対する法制は、内容によっては、内政干渉になる恐れがある。
外国籍を持つ海外同胞に対して、一方的に権利や社会的待遇などを付与することも、場合によっては、その当該国との間で問題になりえるのだ。
このように、海外同胞の定義は難しい問題となるだろう。
ちなみに、韓国には、「在外同胞の出入国及び法的地位に関する法律」(在外同胞法)がある。同法では、在外同胞を、母国籍を持つ「在外国民」と、外国籍を持つ「外国国籍同胞」に区分し、国内での法的地位を規定している。
北朝鮮の対日政策とどのように結びつくか
また、海外同胞権益擁護という言葉から、自国内だけでなく、他国における海外同胞の権利問題にも関連した規定がおかれる可能性がある。
海外同胞の人権侵害などについて、北朝鮮が他国に抗議することは可能だが、新法と関連して、その場合の実効性をどのように担保するかが問題となる。国交があるかないかでも変わってくる。
この点、海外同胞の権利問題と無関係ではないのが、日本である。
北朝鮮は、「日本政府が、在日朝鮮人や朝鮮学校に対して差別政策を行なっている」と対日非難を繰り返してきたからだ。
日本には、海外同胞団体の中でも最大規模とされる「在日本朝鮮人総聯合会」(朝鮮総連)もあり、北朝鮮側もその権利問題を注視しているのだ。
海外同胞権益擁護法が、対日政策とどのように結びつくのか注目される。
八島 有佑
@yashiima