深刻な尿素不足の原因は?
コロナ禍も一段落して経済活動が、活性化した秋口頃から、石油の供給不足が叫ばれるようになった。
その状況は韓国も変わらない。が、今この国では、石油製品よりも、尿素不足のほうがよっぽど問題視されているという。
日本のテレビや新聞では、ガソリンの高騰が連日のように大きなニュースになっている。
韓国ではそれ以上に、尿素不足を伝える報道が目立つ。政府や産業界、一般国民までも戦々恐々となっているという。
韓国は尿素の97%を中国からの輸入に依存している。ところが、今年になってから中国の尿素生産量が激減。輸出規制措置が取られるようになった。韓国への供給が止まり混乱状況を招いたのである。
尿素はアンモニアから作られるのだが、そのアンモニアは、石炭を精製して抽出する。
中国は、オーストラリア産石炭を禁輸して以来、石炭不足に陥っている。当然、尿素の生産は、減らさねばならず、国内需要を賄うのが精一杯。輸出している余裕などないというわけだ。
尿素不足で都市機能が停止する危機も…
韓国では、年内に尿素の在庫が尽きるかもしれないという。尿素は、発電所の窒素除去装置の触媒にも使われている。
新聞では「火力発電所の15%が停止する」と報じられ、暖房需要が急増する冬が近いだけに大問題だ。
また、尿素は化学肥料や化粧品の原料となり、尿素を水に溶かした尿素水は、車のディーゼルエンジンを動かすには欠かせない。
韓国では日本よりもディーゼル車が多いだけに、問題が長期化すれば大変なことになる。バスやトラックはもちろん、消防車、救急車も動かすことができず、物流や都市機能が危機的状況に陥るかもしれないのだ。
このため文在寅(ムン・ジェイン)大統領も、「あらゆる手段を尽くして、尿素を素早く確保してほしい」と指示したというが、それが簡単できるならこんな大騒ぎにはならない。
ベトナムやサウジアラビアなど、各国から余剰になっている尿素を買い漁り、現在のところ約半年分の需要を確保。なんとか当面の危機は回避できたが、安定供給のための輸入先を確保することは、まだできていない。
2011年に尿素の国内生産を終了していた
尿素やその原料となるアンモニアは、あらゆる産業の必需品なだけに、どこの国もある程度の国内需要を賄うだけの生産設備がある。
昨年の日本は、尿素製造などに必要なアンモニア96万2814トンを確保していたが、その77%は国内の工場で生産されたもの。また、設備をフル稼働させれば、需要の90%以上を国内生産が可能だという。
韓国でも1966年に日本企業の技術供与で大規模尿素工場を建設し、国内生産を開始していた。
この時には、建設費を捻出するために、当時の国力からすれば、かなり厳しい4200万ドルもの商業借款をしている。
しかし、2000年代になると中国企業との価格競争に敗れ、アンモニア製造から撤退する企業が相次いで、2011年には、ついに国内生産が停止。国内需要をすべて輸入に依存するようになってしまった。
60年代に苦労して手に入れた生産技術を無駄にしただけではない。戦略物資とも言うべき尿素の需要をすべて外国に委ねるというのも…、刹那主義の傾向があるという韓国人気質が、ここにもよく現れている。
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。