朝鮮半島から強制徴用された人々を物語る徴用工像
慰安婦像と並んで、韓国では反日のシンボルとなっているのが徴用工像。痩せ細った少年労働者の姿が、戦時下の日本に“強制徴用”された人々の過酷な日々を物語っている。ということだが、実は、像のモデルとなった少年は日本人だった…。
像のモデルは日本人のタコ部屋労働者か?
韓国の小学校教科書に「韓国人徴用労働者」として載せられ、韓国では誰もが知る有名な写真がある。痩せ細った裸の若者たちが立って並ぶその中に、顔や体格ともに徴用工像にそっくりな人物がいる。
この写真を見た者は誰もが、彼こそが徴用工像のモデルだろうと察する。しかし、ここに写っている人々は全員が、朝鮮人ではなく日本人なのだ…。写真は徴用がまだ始まってもいない1926年に撮られ、旭川新聞の記事に掲載されたものである。
北海道の土木工事現場で労働者の虐待が発覚した時のスクープ記事だ。どういった経緯なのかはわからないが、それが韓国の教科書で「朝鮮人徴用工」として使われたのである。無断使用であることは間違いない。
2016年に徴用工像の完成を発表されるとすぐに、「あれは日本人がモデルだ」と指摘する者が現れた。日韓のSNSでもそのことがよく語られるようになる。この時、教科書の写真が間違いだったことにも、多くの韓国人が気づいたという。
日本の歴史教科書でも、足利尊氏や武田信玄の絵が、実は別人物を描いたものだと発覚して話題になったことがある。韓国人にとってもそれと同じような驚きだったのかもしれない。
迷走する韓国司法の判断
迷走する韓国司法の判断
ただし、韓国内には、いまだに「あれは朝鮮人徴用工の姿だ」と信じて疑わない人も多く、論争の決着はまだついていない。像の製作者である彫刻家のキム・ソギョンとキム・ウンソン夫妻も「特定人物をモデルにしておらず、すべて想像で徴用工の姿を表現した」と、主張して疑惑を真っ向から否定したが、騒ぎはそう簡単に収まらず、やがて論争は訴訟にまで発展し、裁判所が是非を判断することになった。
2019年8月に韓国・大田市の市議会議員が、市中に設置された徴用工像を「教科書に誤って掲載された日本人労働者に似ている」と指摘していたのだが、キム夫婦がこれを名誉毀損にあたるとして提訴。その判決が今年5月28日に下され、裁判所は、市議の主張には「真実相当性がある」と判断。彫刻家夫婦の訴えを棄却した。
しかし、キム夫妻はこの他にも徴用工像に関する裁判を起こしていた。ソウルでも像のモデルが日本人だと主張する研究員を相手取り、名誉毀損で訴えている。その判決も9月30日にソウルの地方裁判所で出されたのだが、こちらは「研究員の主張は推測にすぎない」として、500万ウォン(約47万円)の賠償金支払いを命じているのだ。
「果たして徴用工像のモデルは日本人なのか否か?」
裁判官たちの判断も分かれるようで、論争はしばらく続きそうではある。
韓国“徴用工像モデルは日本人” 裁判所によって判断分かれる
青山 誠(あおやま まこと)
日本や近隣アジアの近代・現代史が得意分野。著書に『浪花千栄子』(角川文庫)、『太平洋戦争の収支決算報告』(彩図社)、『江戸三〇〇藩城下町をゆく』(双葉社新書)、近著『日韓併合の収支決算報告~〝投資と回収〟から見た「植民地・朝鮮」~』(彩図社、2021年)。